無報酬デザイナーでも当然という世の中らしいですね

久しぶりにカーっと頭に来てしまったので脊髄反射的に思うところを書いてみようかと思います。
話の発端となったのが、大阪市で実際にあったの募集事案である

区が無報酬デザイナー募集…抗議殺到、計画中止 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

大阪市 天王寺区 【報道発表資料】デザインの力で、行政を変える!!〜天王寺区広報デザイナーを募集します〜


というものです。
説明は不要かとも思いますが一応スタンスの説明も兼ねてまとめますと、要するに大阪市天王寺区でそれまで区の職員が担当していたデザイン事案を外部に依頼しようという公告がなされたことからはじまります。
しかし条件として、それまで「デザインにかかる実務経験」が必要とうたっていながら無報酬のボランティア活動を前提としており、実質「無料で区のためのデザイン事案を担当してくれる人がほしい」という内容が実際にデザイン業界などで勤務をしている人から大反感を買って中止に追いやられてしまったということです。

ただ、行き過ぎた批判には反動的に反発する意見も当然出てくるもので、的外れな権利主張をするデザイン業界の人に対して辛辣な批判をする人もまた出始めたようです。

無報酬デザイナーを募集して何が悪い?


批判内容としては一見至極もっともなことを言っており、問題に関心はあるもののあまり批判内容の詳細については知らなかった私としても、ああそういう意見もあるかもなと感じる部分も多い内容になっていました。

ですがあえて言わせてもらえば、やはり私は大阪市天王寺区の無報酬デザイナー募集という行動は許せないと感じる部分がかなり多いもの感じます。
なぜ許せないのかということを考えると、それはやはり私自身がデザイン業界に身を置き、納得のいかない業務内容や低報酬に苦しんでいるという現状が関係しているかと思います。
詳しくは書きませんが、一応私の本職はWebデザイナーであり、かつてDTPや広告関連の業界に身をおいたこともあるということはまず前提としておいてください。

デザイン業界というと聞こえがいいですが、現在ほとんどの現場であたりまえのように横行しているのが「デザインを全くわからない人からの理不尽な要求の具現化」です。
これも実際に体験をしたことがない人には想像ができにくいかと思うのですが、たとえば「こういうデザイン作って」という依頼が来たとして、それにできうる限り対応させて作った作品がそのままOKとなることはまずありません。
フォント、文字の大きさ、バランス、色の配置、全体の印象といったデザインに関わるあらゆることを意識しつつ、デザイナーとして勤務する人の多くは経験則やクライアントからの要望に対して最大限の配慮をしつつ作成していきます。少なくともプロという意識を持つ良心的なデザイナーの場合は。
ところが、クライアントというのはわがままなもので、ぱっと見の直感で「この文字をもっと大きく目立たせたい」「ここの色だけを変えてほしい」といったような非常に部分的な修正をかなりの割合でしてくるものです。
もちろんそれらはデザイナーの力量が足りなかったと言われればそれまでのことですが、部分的な修正を強いられることで全体のバランスをすべて修正しなくてはならなくなるようなこともかなりのケースでざらとなっています。
そういう細かい部分の修正を言ってくるのが長年デザインの仕事をしてきたような人ならまだいいのですが、ほとんどの場合がデザイン経験はゼロに等しく、感覚=デザインという迷惑な勘違いをしているような人が多いわけです。

余談ながら付け加えれば、そういう人の多くが「自分はデザインをしたことはないけど、他人の行ったデザインの悪いところを指摘することはできるので、デザイン力はある」といったような本当に迷惑極まりない勘違いをしています。

デザイナーを職業にしているというと、「やりたいことをやっている」「センスを商売にしている」というような偉そうなイメージを抱かれがちですが、そうした「やりたいデザインを仕事にしている」というような人は本当にごく一部で、ほとんどの人がセンスのない(と、あえていいます)クライアントや上司などの言いなりになりながらクソつまらないデザインという流れ作業をしているのです。
もしそうでないデザイナーさんがいたら、それは幸せなことだと大いに噛み締めるべきです。
*1

で、話を元に戻して無料デザイナーの何がいけないかということになりますが。
現職デザイナーの多くがカチンとくるのは、この「どうせデザインなんて生まれ持ったセンスで行うものなんだからタダ同然の価値」というようなまるでデザイン力は努力無くして得られる簡単なもの、というような意識が裏に見えてしまうからだと思うのです。
ただし付け加えておけば、実際にほとんど勉強や経験もないのに優れたデザインのセンスをちょっとの努力でできるようになっている人もいるという事実もあります。
そこがデザイナー職というものを面倒にさせている原因でもあるのですが、たとえばコックや一般市職員を無料で募集したとしても、経験や知識ゼロでプロ同然の仕事をしろといっても多分無理です。
市長をボランティア(無報酬)で募集しろ、と言ったらかなりデザイナーに近いことになるのではないかと思いますが、生まれ持ったセンスやらそれまで自主的に重ねてきた学習内容やらによってかなり仕事の良し悪しが大幅にぶれてしまいます。

うまいこと、批判的なブログで言ってらしてる方が「無報酬で区長を募集してみろ→→→→→→→→→→実はちょっと賛成。案外うまくいくかもw」とか言ってますが、これもあくまでもセンスや良識の最初から備わっている人が区長として立候補されていることが前提なわけで、なんのセンスも経験もない人が口八丁で区長について、偉そうな指揮をとることだって十分に考えられるわけです。

今回、無報酬で仕事を募集することを悪だと思うかどうかばかりがクローズアップされてしまっていますが、私の立場からすれば問題はそこではなくて「デザイン職」という仕事を無報酬でも十分に可能な仕事であるかのごとくナチュラルに考えてしまっている頭がムカつくのです。
敵を増やすつもりで言えば、この問題を批判するときにコックやら市職員やら他の仕事を同立なものとして並べてしまったことで、余計に論点がぼけてしまった感があるので、その点非常に残念に思います。

デザインについては、全く経験がなくてもすばらしいセンスを持っている方がいます。
その方にとっては片手間でもいいのだし、別に無料で提供してもいいじゃないという気持ちがあっても当然かと思います。
ですがそれを厳しく言わせてもらえば、本来十分な(というかセンスのないやつらよりも数倍の)対価をもらって当然の仕事をしているのに、それを無償で提供しているというのは搾取以外の何者でもないということです。
例え自分自身の評価では持っているセンスが無償同然であったとしても、それを生かし本来なら十分以上の対価を得るべきことなのです。
あなたはよくても、その搾取を受けたほうは「タダでもこんなにいい思いができた」とほくそ笑んでいますが、それでもいいでしょうか?

反対に、大会社に勤務しているからというブランドイメージのみでたいしたデザインも提供していないのに多額の報酬を要求するデザイナーも確かにいます。
そういったクソみたいなブランドデザイナーの鼻をあかすために無償でものすごいものをつくってやりたいと思う人がいたっていいかと思います。
まして市発注となれば、そういうブランドイメージ優先デザイナーが報酬目当てで募集することだって十分考えられます。

いろいろ書きましたが、要するに私が言いたいのは「デザイン=眼に見えないもの=0円」という現場で働く人間に対して全く配慮の欠いた募集が行われたということです。
もう一つ批判ブログを書いた方に厳しく言わせてもらえば「①正当な対価を支払うべき→→→→→→→→→→→→正当な対価は当事者同士が決めるべきもの」という前提はあくまで発注者と応募者の双方の立場が同じという前提に成り立つもので、ほとんどの場合は発注者が言い値で買い叩くという今の情勢の中では全く成り立たない主張です。
(それを書かれた方がよほど自分のデザインなりに自信を持たれているならご本人にとってはそうなのでしょう)。

私個人の主張を最後に述べるとするなら、デザインやDTPに関してその作業を「無料」と扱うのはそもそもその技術を習得するために努力研鑽を進める人のモチベーションを大いに奪うものです。
もし今後日本のデザインやDTPの力をデザイン力として発展させていこうと思うなら、少なくとも無料でデザインをさせるなどという愚行は避けるべきと、私は強く主張します。





※追記------------------------------------------

コメントを見ているとどうも区が無報酬でデザインの仕事を依頼したことの是非というよりも、「デザイナー」としての仕事がきついのは当たり前だとか、私の営業方法や仕事に対する姿勢が甘いとか、そういう本題とは関係ないところに意見が集まっているように感じます。
ので、あえて一言。

一応誤解のないように言っておきますが、私は自分を全国や大阪のデザイナーの代表者であるとは思ってませんし、私と同じ考えでデザイナーやってる人が多数だなんて思ってません。

なので私が愚痴っぽい意見を書いたからといって、世の中のデザイナーすべてがこういう狭い見地から怒っているとかそういう解釈の仕方はやめてください。
私もそうされたデザイナーも迷惑です。
個人ブログに愚痴を書いたことを云々言われて、業界の代表であるかのごとく批判を受けるのはこのブログの本位ではありません。

ただ、自分がデザイナーとして勤務をしていたときの経験上、こういうことに腹が立つ、もしかしたら腹を立てる人がいるんじゃないだろうかなという気持ちで上記の記事を書いただけです。
私の意見がある種のカタルシスになればよいだけのことであって、私の態度を部外者の方から批判されてデザイナーという職業を貶められるのは正直ものすごく嫌です。
私はデザイナー業界の味方ではありますが、デザイナーを代表して戦うほどの無償ボランティア精神なんて持っちゃいません。


そもそもこの記事がこんなに集中的なアクセスを受けるとは予想もしてなかったので、わかっていたらもっと配慮のある文章を書いていたかと思います。
もし私の文章で気分を害した方がいたらすみません。

それと、私自身への仕事に対する考えが甘いだの、デザイナーとして食っていくならああしろこうしろというアドバイスをくださった方はありがとうございます。


私自身は見も知らないような人に仕事の仕方について親身になってアドバイスしてあげようなんて思ったこともないので、随分と優しい方が多いのだなと思いました。


おそらくもう二度とはこのブログの記事を読むこともないかと思いますが、アクセスをしていただきましてありがとうございました。



※再追記------------------------------------------

ちなみにここは個人のブログですので、長文でご自分の主張を演説されたいときはこのコメント欄ではなく、ご自分のブログなどでどうぞ。
TBならご自由に。

このブログのコメント欄は意見掲示板ではないので。

*1:ちなみに私自身は既にデザイナーとしての第一線は退き別の営業方法をしています(こういう業界に嫌気がさしたので)。なので、私の仕事に対する姿勢やら考え方とかそういう人間性のへの批判はアドバイスとしては無意味なので、ご了承ください。